Semantica Tutorial 2026:最小構成でAgent Memory構築

「インストールは終わったのに、どのコマンドとデータを使えば成功なのか分からない」――最初の作業で詰まりやすい症状です。
最短ルートは、最小バックエンドで「インストール→健康チェック→書き込み→検索→再起動確認」を通し、その後に外部グラフストア、ベクトルストア、LLMを一層ずつ追加することです。

初めてSemanticaを導入するPython開発者、会話や文書をAgent Memoryへ変換する原型を作りたいチーム、再現可能な環境を整えたいプラットフォーム担当者を対象にしています。企業規模のKnowledge Graphをいきなり完成させたい場合は、この記事の最小例を検証用の土台として使ってください。

1. 最初のゴールを小さく固定する

最初に作るデータは、人物、組織、関係、出典を少数含む短いテキストにします。たとえば「AさんはB社に所属し、Cプロジェクトを担当している」という内容を用意し、最初の検証問い合わせを「Aさんが所属する組織はどこか」に固定します。

このサイズなら、抽出結果を原文と比較できます。反対に、PDFを大量投入し、LLM、埋め込み、外部グラフストアまで同時に導入すると、失敗箇所が入力、解析、推論、保存のどこなのか判別できません。

最初に固定する項目 推奨する内容 合格条件
入力 短いテキストまたは小さなJSON 原文を保存できる
エンティティ 人物、組織、プロジェクト 抽出結果を目視照合できる
関係 所属、担当、作成など 向きと対象が一致する
問い合わせ 1つの関係を確認する質問 元データから答えを説明できる
保存 まずローカル、次に永続ストア 再起動後に同じ結果を確認できる

SemanticaはKnowledge Graph、推論、出典管理を既存のAIスタックへ追加する構成として説明されています。したがって、最初からLLMを必須にする必要はありません。公式クイックスタートでも、パターンベースの抽出はAPIキーなしで動かせると案内されています。(pypi.org)

2. Python環境とインストール経路を確認する

公式インストール手順では、Python 3.8以上が必要で、Python 3.11以上が推奨されています。推奨環境として、OSはLinuxまたはMac、メモリは16 GB以上、ストレージは20 GB以上が示されていますが、これはモデルやデータを含む運用時の目安です。最小構成の動作確認に同じ容量を断定してはいけません。(docs.getsemantica.ai)

まず、作業ディレクトリで仮想環境を作成します。

mkdir semantica-first-run
cd semantica-first-run

python3 -m venv .venv
source .venv/bin/activate

python -m pip install --upgrade pip
python -m pip install semantica

Windowsでは、仮想環境の有効化だけ次の形式に置き換えます。

.venv\Scripts\activate
python -m pip install semantica

公式手順は基本パッケージとオプション依存関係を分けています。LLM、GPU、可視化、外部グラフストアを最初から全部入れるのではなく、必要な機能だけを後から追加してください。

導入方法 向いている場面 最初の選択
pip install semantica 基本機能の確認 推奨
pip install semantica[all] 多数の機能をまとめて試す 初回は避ける
ソースから編集可能インストール 開発や修正 実装を追う場合
LLM用追加依存関係 LLM抽出を試す 基本動作後
外部ストア用追加依存関係 永続化や共有環境 ローカル検証後

注意: pippythonが別の環境を指すと、インストール済みなのにModuleNotFoundErrorになることがあります。作業中はpython -m pipを使い、実行するPythonと同じ環境へ導入してください。

3. CLIと健康チェックを先に通す

インストール直後に業務コードを書くのではなく、パッケージ、バージョン、CLIの順に確認します。

python -c "import semantica; print(semantica.__version__)"
semantica --help
semantica-server --help
semantica-worker --help
semantica-mcp --help

公式CLIリファレンスでは、基本CLIのほか、RESTサーバー、ワーカー、MCPサーバーなどのエントリーポイントが説明されています。Explorerのように追加依存関係が必要なコマンドもあるため、ヘルプ表示ができない場合は、いきなり本番コードへ進まず、導入した追加機能とPATHを確認します。(docs.getsemantica.ai)

サーバーの健康確認まで試す場合は、公式のREST起動方法に合わせます。

semantica-server

別のターミナルで次を実行します。

curl http://localhost:8000/health
curl http://localhost:8000/api/info

公式例では、健康確認の応答としてステータス情報を取得し、APIの稼働状態を確認します。ここで失敗した場合、Knowledge Graphのコードを疑う前に、ポート、PATH、仮想環境、依存関係を切り分けてください。(docs.getsemantica.ai)

症状 先に確認する場所 回避策
semanticaが見つからない 仮想環境とPATH source .venv/bin/activate後に再実行
importで失敗する Pythonとpipの対応 python -m pip install --upgrade semantica
追加依存関係で失敗する GPU、LLM、可視化の導入順 基本パッケージだけで再確認
REST確認に失敗する サーバープロセスとポート 別ターミナルでcurlを実行
MCPだけ動かない stdio設定とコマンド経路 クライアント設定前にシェルで単体確認

4. 最初のエンティティと関係を書き込む

公式クイックスタートの基本フローは、入力、解析、エンティティと関係の抽出、GraphBuilderによるグラフ構築です。APIの細部はリリースで変わる可能性があるため、現在の公式例と同じモジュールパスを使い、古いブログのコードをそのまま流用しないでください。(docs.getsemantica.ai)

first_graph.pyとして保存します。

from semantica.semantic_extract import NERExtractor, RelationExtractor
from semantica.kg import GraphBuilder

text = (
    "Mika works for Northwind Labs. "
    "Mika leads the Memory project."
)

ner = NERExtractor(method="pattern")
entities = ner.extract(text)

relation_extractor = RelationExtractor(method="rule")
relationships = relation_extractor.extract(text, entities=entities)

graph = GraphBuilder(merge_entities=True).build({
    "entities": entities,
    "relationships": relationships,
})

print("entities:", len(graph["entities"]))
print("relationships:", len(graph["relationships"]))
print(graph)

実行します。

python first_graph.py | tee first_graph.log

ここで重要なのは、画面にグラフらしい表示が出ることではありません。first_graph.logを残し、入力文に存在しないエンティティが追加されていないか、関係の主語と対象が逆転していないかを確認します。merge_entities=Trueは重複するエンティティの統合に使われますが、統合が常に正しいとは限らないため、代表名と別名の扱いを小さな入力で確認してください。(docs.getsemantica.ai)

5. 精密検索と関係の追跡を検証する

最初の検証では、自然言語の曖昧な質問より、関係の存在を直接確認できる条件を使います。たとえば、Mikaというエンティティがあり、works_forや同等の関係がNorthwind Labsを指しているかを、生成された辞書の中で確認します。

その後、関係を1段ずつたどる問い合わせへ進みます。

  • 人物から所属組織へ進む。
  • 人物から担当プロジェクトへ進む。
  • それぞれの関係に出典や信頼度が含まれるか確認する。
  • 元テキストのどの部分に対応するか記録する。
  • 同じ入力を再実行し、ノード数とエッジ数の変化を比較する。

Semanticaの概念説明では、Knowledge Graphはノード、エッジ、プロパティで構成され、関係と出典を追跡可能にする設計とされています。Agent Memoryとして使う場合も、検索結果だけを保存せず、どの事実から答えを作ったのかを記録できる形にしておくと、後の誤答調査が容易になります。(docs.getsemantica.ai)

6. 再起動と重複書き込みを確認する

「保存できた」と判断する条件を、プロセス終了前の表示だけにしないでください。最小構成で作ったグラフがメモリ上のオブジェクトであれば、プロセス終了後に残るとは限りません。再起動後も使うAgent Memoryなら、公式例にある保存済みグラフファイルや外部グラフストアの構成を選び、同じ問い合わせを再実行します。(docs.getsemantica.ai)

確認手順は次の順番です。

  • [ ] 生成したグラフ、入力データ、実行ログを別ファイルとして保存する。
  • [ ] プロセスを停止し、同じ仮想環境を再度有効にする。
  • [ ] 保存先を指定した同じスクリプトを再実行する。
  • [ ] 初回と同じエンティティ、関係、問い合わせ結果を比較する。
  • [ ] 同一データをもう一度投入し、重複、上書き、競合の挙動を記録する。
  • [ ] 期待と異なる場合は、LLMを追加せず、入力と保存層だけで再現する。
検証対象 成功の判定 失敗時の切り分け
再起動 同じ問い合わせが同じ事実を返す 保存先と読込処理
重複投入 ノードや関係の増加が予想どおり 重複統合の設定
競合情報 異なる事実を黙って上書きしない 出典と競合処理
出典 元データへ戻れる provenance設定
ログ 失敗箇所を再現できる 入力と依存関係

経験則: 永続化を確認するために、最初から大きなデータセットを使わないでください。数件の固定データで再起動と重複投入を再現できなければ、データ量を増やした後の障害はさらに追いにくくなります。

7. 外部グラフストアは検証後に追加する

外部グラフデータベースへ接続する場合は、まず公式クイックスタートにあるStoreの接続パターンを確認し、接続先を生成したGraphBuilderへ渡す構成にします。公式例では、外部ストアへ構築したグラフを保存し、プロセス再起動後も利用する流れが示されています。(docs.getsemantica.ai)

ただし、接続エラーと抽出エラーを同時に扱わないことが重要です。次の順番で段階的に進めます。

  1. ローカル構成でエンティティと関係を固定する。
  2. 外部ストアへの接続だけを確認する。
  3. 1件のエンティティと1件の関係を書き込む。
  4. 再起動して同じ情報を取得する。
  5. その後にデータ件数を増やす。
  6. 最後にベクトル検索、LLM抽出、MCP、REST APIを追加する。

外部ストア、ベクトルストア、LLMを一括導入すると、認証、ポート、依存関係、埋め込み次元、データ形式の問題が重なります。最初の1週間は、各層に独立した確認用データとロールバック方法を用意してください。

8. 1週間後に本番構成へ広げる

最小構成が安定した後は、次のように一層ずつ拡張します。

  • 文書取り込みを追加し、元ファイルと解析結果を保存する。
  • LLM抽出を追加し、パターンベースの結果との差分を比較する。
  • ベクトル検索を追加し、Knowledge Graphの関係検索と役割を分ける。
  • 外部グラフストアを追加し、再起動と複数プロセスからの参照を確認する。
  • MCPまたはREST APIを追加し、認証、ログ、タイムアウトを検証する。
  • 変更ごとに固定入力と期待結果を使った回帰テストを実行する。

Semanticaの公式リポジトリには、LLM、グラフストア、ベクトルストア、MCPなどを追加依存関係として導入する形式が掲載されています。機能を足すほど環境差が増えるため、導入した追加機能とバージョンをrequirementsや環境定義へ記録しておくと、別の開発者やCI環境でも再現しやすくなります。(github.com)

Semanticaの料金やライセンスを確認しながら運用範囲を決めたい場合は、Semanticaのコスト整理ガイドで導入費用と運用項目を分けて確認してください。検索性能を評価する段階では、Agent Memoryの性能測定方法のように、回答の正しさだけでなく検索時間、再現性、出典の有無も記録する設計が必要です。

最小構成とMacstripeの使い分け

自分のPCへ直接入れる方法は、短い検証には向いています。一方で、Pythonの複数バージョン、追加依存関係、外部ストアの接続情報が混ざると、環境を初期状態へ戻す作業が負担になります。特に、同じ手順をチーム内で再現したい場合は、汚れたローカル環境を使い続けること自体が障害要因になります。

最小フローを通した後に、クリーンなクラウドMacへ同じ手順を移し、基本パッケージ版と完全依存関係版を分けて検証すると、環境汚染を抑えながら再現性を確認できます。短期のAgent Memory開発、依存関係の比較、再起動試験が目的なら、Macstripeの利用設定を確認し、必要な期間だけ検証用環境を用意する方法が現実的です。長期的に固定負荷で運用する場合や物理機器への直接接続が必要な場合は、自前環境のほうが適しています。